百人一首姥かゑとき 源宗于朝臣
説明
雪積もる冬の山中で、暖をとる猟師たちが描かれています。人家もない寒い山では、焚き火にあたるのはほっとする瞬間であることでしょう、彼らの表情もリラックスしています。手を大きく広げて焚き火にあたる猟師たちのポーズはさまざまです。画面左から2番目の猟師は、足をさすりながらお尻を暖めているようにも見えます。北斎は、人物の身体のかたちや動きを描くことを得意とした絵師です。身体に着目した北斎は、江戸時代に生きながら近代的な視点を持っていたのかもしれません。
焚き火の炎は煙に変わり、たなびく煙が大胆に画面左下から右上に帯状に横切っていく様子が、とても目を引きます。炎と煙は本来はっきりとしたかたちを持たないものですが、北斎はそれらを画面の中心に大きく据えています。高い画力と鋭い造形感覚を持つ北斎ならではの、卓抜な画面構成と斬新なモティーフの扱いといえるでしょう。
源宗于(みなもとのむねゆき)の和歌は「山里は 冬ぞさみしさまさりける 人目も草もかれぬと思へば」というもので、人も訪れず草も枯れ果てた冬の山里の寂しさを詠ったものです。この絵は、『百人一首姥かゑとき』シリーズの中でも、解釈が難しい図のひとつです。北斎はどんな思いをこめて、宗于の歌を表現したのでしょうか。
画面をよく見てみると、右には塀で囲まれた東屋があり、中にはかまどがあって、鍋も吊るされています。薪もありますが、うっすら雪が積もっています。どうやら長い間使われていない東屋のようです。この東屋を通じて、北斎は山里の寂しさを詠った歌意を表現しているのではないでしょうか。