コレクション 町田市立国際版画美術館

芝増上寺

芝増上寺

川瀬巴水
かわせ はすい
1883(明治16)~1957(昭和32)

芝増上寺
しばぞうじょうじ

1925(大正14)年
木版(多色) 361 x 240 mm

説明

雪の白と建物の赤のコントラストがなんとも鮮やかです。この建物は、港区芝の東京タワーのすぐそばに、現在もある増上寺です。江戸時代には徳川家の菩提寺として隆盛を誇りました。
雪はしんしんと降り続いているようで、増上寺の屋根にも、左手前の松にも雪が積もり、松の幹は雪の重みでたわんでいます。雪片が飛び散る吹雪の中、着物姿の女性が傘をつぼめて増上寺の門前を進みます。

増上寺は江戸時代からひんぱんに描かれてきた名所です。画面の手前に大きく描かれた斜めに伸びる松の幹、傘を斜めに差していて表情の見えない女性といったこの作品の特徴は、実は歌川広重がよく用いた表現にほかなりません。
巴水はこのように、江戸時代からの伝統的な主題やモティーフ、構図を採用しているのですが、その反面、近代的な感覚の表現も取り入れています。
雪の激しさを物語るように乱れ飛ぶ雪片は、一片一片の大きさが異なります。そして画面右上から左下にひらひらと舞う雪の動きからは、右から吹き付ける風の動きを知ることができます。遠景の松は輪郭線を用いずに描かれ、ほのかに光を帯びて霞む様子は、繊細なぼかし(グラデーション)によって表されています。このような新しい表現に、巴水の瑞々しい感性をうかがうことができます。

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