ミス・ロイ=フラー

説明

ロイ・フラーは19世紀末のパリで活躍したアメリカ出身のダンサー。さまざまな色の照明を浴びながら、薄いドレスをひらひら舞い上がらせて踊る「炎のダンス」で評判になりました。彼女のすばやい動きの一瞬を、ロートレックは思い切って単純化した線でとらえています。

フランスの画家トゥールーズ=ロートレックは優れたデッサン力を駆使し、世紀末パリに生きる人々の姿を描きました。その短い生涯に300点を越える版画を残しましたが、初期に制作されたこの作品では、とりわけ手の込んだ実験的な色刷り手法が用いられています。刷りには5枚の版が使用され、一回一回、異なる色の組合せで刷られています。たとえば、ドレスのための４番目の版では、赤・茶・すみれ・青・黄・緑の6色のなかから色彩が選ばれ、さらに5番目の版は無彩色で刷ってインクが湿っているうちに金粉あるいは銀粉が施されました。こうした制作方法の結果、同じ刷りは二つと存在しません。当館所蔵の刷りは、茶・緑・黄・青のインクに、金粉の組合せで刷られています。