コレクション 町田市立国際版画美術館

海運橋 第一銀行雪中

小林清親
こばやし きよちか
1847(弘化4)~1915(大正4)

海運橋 第一銀行雪中
かいうんばし だいいちぎんこうせっちゅう

明治9年(1876)頃
木版(多色) 大判

説明

小林清親は、明治に活躍した浮世絵師です。文明開化によって変わりゆく東京の街並みをスケッチしながら制作した、『東京名所図』と呼ばれる風景画のシリーズで知られています。この作品はシリーズを代表する一点で、明治6年(1873)に開業した第一国立銀行が雪景色のなかに描かれています。

傘を差し画面の奥へ向かう着物姿の女性。その先には人力車の往来する石造の海運橋が架かり、立派な建物がそびえ立っています。この建物は明治6年(1873)に開業した第一国立銀行で、当時の代表的な擬洋風建築の一つです。灰色の空には鳥が三羽飛ぶほかに何も無く、当時としては珍しい高層建築だったことがわかります。清親はこの新しい建造物を取り立てて誇張することなく、季節や人々の生活に溶け込む様子に描いています。同時に、建物の全貌は描かず上層部分のみを橋からのぞかせることで、江戸浮世絵に登場する「富士」のような、シルエットの面白さを引き出すことも忘れていません。そして興味深い文字情報も書き入れられています。女性の番傘に記された「銀坐」「岸田」の文字は、日本初の目薬・精錡水を製造した岸田吟光の銀座の店を示し、その宣伝を兼ねていると考えられています。
江戸から東京へ移り変わる街並みを繊細な色彩でとらえた清親の『東京名所図』シリーズは、「光線画」とも呼ばれています。赤や紫の合成染料を多用した「開化絵」が大勢を占めていた当時の浮世絵界に、新しい風を吹き込みました。

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