髪梳ける女
橋口五葉
はしぐち ごよう
1881(明治14)~1921(大正10)
髪梳ける女
かみすけるおんな
1920(大正9)年
木版(多色) 439 x 325 mm
説明
つげ櫛で髪をとかす女性が、銀一色の背景から浮かび上がるように見えます。流れるように美しい黒髪、女性特有の身体のやわらかな線、そして撫子(なでしこ)模様を散らした浴衣の風合いは、いずれもその手触りまでもが伝わってくるようです。女性の髪の毛や肉体の輪郭線は非常に細い線を、浴衣の衣紋には太くリズミカルな描線を用いて、それぞれの質感を描き分けることで、画面に実在感が生まれているのです。
一見うすいグレーに見える銀の背景には、実はキラキラしたラメのようなものが入っています。これは雲母(うんも)の粉を摺り込む、雲母摺(きらずり)という日本の木版画に伝統的に用いられた技法によるものです。雲母摺を用いた部分には美しい光沢感が生まれ、画面の魅力をぐっと高めてくれます。また、身の回りのものを一切描かず、背景を一色にしたことで、黒髪の美しさが画面の中で際立って見えます。背景の銀、浴衣の藍など寒色を基調とした画面の中で、浴衣からわずかにのぞく朱の帯が差し色となってこの絵をひきしめています。
女性の美しくうねる髪の毛の量感や、一本一本にいたるまでの細やかな描写は圧巻です。つややかな黒髪と浴衣からのぞく白い肌は好対照をなし、健康的かつ清新な女性美を感じさせます。アールヌーヴォー様式を思わせる流麗な描線と清楚な色彩を用いて、非常に上品に女性の官能性と身体美を表現しているのです。