コレクション 町田市立国際版画美術館

ENOKEN之図

藤牧義夫
1911(明治44)~1935(大正10)行方不明

ENOKEN之図

1934(昭和9)年
木版、250×340㎜

説明

作者の藤牧義夫は、1930年代前半に、「新版画集団」という青年版画家グループに所属して活動した画家です。本作品には、フットライトの光を浴びた怪異な表情のエノケンが表されています。

画面向って左には「贈 畦地兄/ENOKEN之図」「昭和九年九月廿七日/午前十一時作之/藤牧義夫」(/は改行)と墨で書かれています。藤牧が所属する「新版画集団」は、この木版画が制作された直後の9月29日から10月29日まで、浅草の松竹座で「エノケン一座を回る展覧会」を開催しました。この展覧会に藤牧が出品した作品が、「エノケンの魔術師」と「出を待つ永井智子(マルグレット)」の2点でした。断定はできませんが、本作が出品作品のひとつであった可能性があります。「畦地」とは藤牧より少し先輩の版画家、畦地梅太郎(1902-1999)のことで、二人の交流の跡が偲ばれます。作品は、1934年の「新版画集団第4回展」に出品した代表作となる「赤陽」や、同じ月に刊行された集団機関誌の版画誌『新版画』第12号に掲載の「月」などで見せた、三角刀で激しく刻む表現主義的な作風で制作されています。「赤陽」や「夜の浅草六区」などで、都市の明暗を表現した藤牧ならではの、都会の多面性を凝縮した作品といえます。

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