コレクション 町田市立国際版画美術館

ボタン(B)

浜田知明
1917(大正6)~2018(平成30)

ボタン(B)

1988(昭和63)年
エッチング、アクアチント

説明

戦後日本を代表する銅版画家・彫刻家の浜田知明。その創作は、通算5年間にもおよぶ戦争体験が原点です。軍隊の卑劣さと戦争の悲惨さを描くことを心に秘め苦しい従軍に耐えた浜田は、帰国後に自らの経験を表現するのにふさわしい技法を求め、冷たいマチエールに惹かれ銅版画を選びとります。鋭いエッチングの線とアクアチントの深い明暗表現を自らのものとすると、1950年から作家の代表的なシリーズとなる『初年兵哀歌』を生み出していきます。

本作は『初年兵哀歌』から30年以上を経て、長年に渡る構想の末に描いた作品です。横一列に並んだ三人の男は右から順にボタンを押して指令を下していきます。頭に袋を被せられ考えることを奪われた最後の男が脊椎反射的に行った動作は、もはや何のボタンを押しているのかも分からないでしょう。一部の指導者が世界を操る核と戦争の構造を見抜いたこの作品は、核のボタンがかくも愚かなプロセスを経て押されるかもしれぬ現実を突きつけ、戦争が人類と個人にもたらす悲劇を一枚の絵で表現しました。生々しい戦争の記憶を描くことを経て辿りついたこの作品は、生涯に渡って自らに問い続けたことのひとつの答えかもしれません。

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