彫刻刀で刻む社会と暮らし-戦後版画運動の広がり 【終了しました】
本展では戦後日本における社会問題や庶民の暮らしを描いた木版画を紹介します。時に鋭く世相を描き出し、また日々の営みを優しいまなざしで捉えた一連の作品は、「戦後版画運動」と呼ばれる美術運動を通して制作されたものです。
版画による社会運動と版画の普及を目指した戦後版画運動は、1930年代に中国で魯迅(ろじん)が提唱して始まった「木刻運動」に刺激されて始まりました。日本では1940年代末から1960年代の中ごろにかけて活発に行われ、労働や基地、原子力問題などの社会問題が主題となりました。さらに生活者目線を重視し、「身近な労働者としての農家の暮らし」も数多く描かれています。
中心的な役割を担った「日本版画運動協会」は、北関東を拠点とする美術家を核として、1949年12月に発足。運動を主導したプロの作家に加え、アマチュアの「版画サークル」が全国に結成され、相互ネットワークが築かれたことが特徴です。また中国、アメリカで展覧会を開催するなど国際的交流も盛んに行われました。
当館では日本版画運動協会の事務局を務めた三井寿(みついひさし)(1921〜1988)が町田市在住であったことを縁に、版画運動に関する作品・資料を多数所蔵しています。さらに活動の中心的な役割を担った上野誠(うえのまこと)(1909〜1980)、小野忠重(おのただしげ)(1909〜1990)、鈴木賢二(すずきけんじ)(1906〜1987)らの作品も収集してきました。
本展では、「社会を描く」、「暮らしを描く」、「それぞれの視点から」、「全国への広がり-地域のなかへ」、「時代を超えて-〈タンポポの種子〉のように」という5つのテーマから戦後版画運動を捉えることを試みます。特に以前から紹介されてきた社会や暮らしを描いた作品に加えて、今回新たに行った現地調査の内容を反映し、これまで紹介される機会が少なかった女性作家による作品を展示。さらに北関東に留まらない全国的な広がりを示す一つの事例として、長野県南佐久郡での版画サークルの活動も紹介します。
近年、木版画による社会運動はアジア全体における広がりが紹介され、ソーシャリー・エンゲージメント・アートの文脈や学際的な関心からも注目されるなど、新たな光があたりつつあります。30点余りの展示ではありますが、当館収蔵品を通して戦後版画運動の広がりについて一層多くの方に関心を持っていただく機会となれば幸いです。
展覧会概要
会期 | 2019年4月10日(水)-6月23日(日) |
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観覧料 | 無料 |