谷中安規展

企画展
谷中安規展
《蝶を吐く人》(『白と黒』41号) 1933年 木版

展覧会概要

谷中安規(たになか やすのり、1897-1946)は1930年代に活躍した版画家です。この時代の東京は、関東大震災から復興を遂げモダンで華やかな顔を見せる一方で、戦時体制へと傾斜し、不安と閉塞感が強まっていました。谷中はそのような新東京を風船のように放浪し、大都市の様相に幼少期の記憶や生活の理想などを重ね合わせて、夢と現実が織りなす木版画を制作しました。ビル群や劇場、飛行船や潜水艦、外国映画のシーンやロボットなど、1930年代特有のモダンなイメージと、奈良の長谷寺で過ごした幼少期や真言宗豊山派の中学に通っていた時代に養われた仏教観、さらに少年時代に暮らした朝鮮の記憶といった土着的なイメージを混ぜ合わせた表現は、実に多元的で独創的な内容を見せています。

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《龍の夢》1939年 木版 個人蔵

10年ぶりの回顧展となる本展覧会は、万華鏡のように幻惑的な谷中安規の作品、約300点を制作年順に整理・展示し、刻々と変わる政治・社会的動向とイメージの変化や表現との関係について再考するものです。それは1930年代という時代を考える試みでもあります。谷中安規の作品は、現代社会をも逆照射してくれることでしょう。

画像特設サイトはこちら
http://taninaka.hanga-museum.jp

展覧会情報

10月4日(土)~11月24日(月・祝)

休館日:月曜日
※10/13(月・祝)、11/3(月・祝)、11/24(月・振休・最終日)は開館
※10/14(火)、11/4(火)は休館

開場時間:
火~金 10:00~17:00(入場は16:30まで)
土・日・祝 10:00~17:30(入場は17:00まで)

観覧料:一般=800(600)円、大学・高校生と65歳以上=400(300)円
※( )内は20名以上の団体料金です。
※中学生以下は無料です。
※身体障がい者手帳または愛の手帳等をお持ちの方と付き添いの方1名は半額となります。
※10/4(展覧会初日)、11/3(文化の日)は入場無料です。

展示構成

1.1920年代 「腐ったはらわた」

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《妄想F》1925年頃 木版 飯田市美術博物館 (日夏耿之介記念館)蔵

1926年、谷中安規は描きためた素描を持って版画家永瀬義郎を訪ねました。永瀬は、その著作が版画制作のきっかけとなった、谷中にとって重要な人物です。 このとき谷中は、人間の性をあからさまに描き出す、エロティックでグロテスクな自らの作品群を自虐的に「腐ったはらわた」と呼んだといいます。
退廃的な作品は、関東大震災直後の東京で活動した前衛美術家のグループ、「マヴォ」のメンバーが制作した、陰惨で暴力的な作品と親和性があります。谷中を含め混沌とした時代に青年期を迎えた芸術家達は、大きな転換期を迎えた1920年代という時代への感情を作品中にあらわしているといえます。

2.1928-31年 サロメからロボットまで

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《女の顔》1931年頃 木版 兵庫県立美術館蔵

1928年、谷中安規は日本創作版画協会展やデッサン社展覧会への出品、小説の挿絵や本の装幀を通し、画家・版画家として社会に飛び出していきました。1931年には、創立したての日本版画協会の会員となり、さらに国画会展や新興版画展にも出品し、キャリアを積んでいきます。
この時期には、民話や神話、伝説、仏典に想を得たと思われる物語的版画や、仏のような女性像を都市空間に登場させた奇怪な版画を制作しています。中でも聖書に登場する、洗礼者ヨハネの首を求めたサロメのエピソードを想起させる作品が多くみられます。
また、1931年にブームが頂点に達したといわれる、ロボットのイメージも版画にあらわしました。

3.1932年 光と影の空間演出

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《自転車 A》1932年 木版 個人蔵

創作活動も軌道に乗り、この年、谷中は多くの版画を制作・発表しています。主要な舞台となったのが、料治熊太編集発行の版画誌『白と黒』と『版藝術』でした。昔話や伝説に登場する獣人やお化けを奇怪かつユーモラスに表した作品、スクリーンの光で浮き上がる映画館内、少年時代を回想した作品など、さまざまな内容の木版画を寄せています。
また、表現主義の映画「カリガリ博士」に強い影響を受けた谷中は、ゆがみや明暗を誇張する手法を取り入れ、光と影の構成による空間の表出を目指します。

4.1933年 土着と幻想のモダニズム

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《瞑想氏》(『白と黒』41号)1933年 木版 個人蔵

関東大震災から復興を遂げた新しい都市東京は、谷中のイマジネーションを刺激する絶好の舞台となりました。建築物が作り出す直線的空間、映画やカフェといった文化、機械文明や政治・軍事的出来事、社会をにぎわす刑事事件への関心が、モダンな形態や情景のモンタージュによって隠喩的に作品に散りばめられます。しかし谷中作品の特徴は、都市のイメージが昔話や伝説、仏典、幼少期の記憶に由来するイメージと錯綜して共存し、幻想性な作品を生み出している点にあるでしょう。モダンと土俗性が溶け合った版画は、それゆえにきわめて独創的な、新しいモダニズム作品として歴史に刻まれたといえます。 1933年はこのような作品が多く制作された、実りの多い年でした。

5.1934年 内なる心の世界へ

1934年1月、暗がりのなかで明かりに照らされた民衆が、プロペラをつけ鳥の羽を広げた飛行体を見上げている版画《怪鳥》を発表します。上海事変勃発で戦時色がただよい、国際連盟から脱退して国際社会から孤立していった、不穏な日本社会を思わせる作品です。一方『こころの花』連作では、幼い頃の母との思い出や、いまの自分の姿とその分身と思われる蝶、可憐な花や大きく見開かれた目などを暗黒世界に浮き上がらせ、内なる心の世界へと意識を傾けています。内田百閒の童話『王様の背中』の挿絵で高い評価を得たのもこの年のことです。

6.1935-9年 「夢の実体」を探して

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《童子騎象図》1937年頃 木版 個人蔵

1934年頃から内なる世界へと向かい始めた谷中は、昭和10年代(1935年~)にはその傾向をさらに強め、天使やこども、女性が動物や鳥などと戯れる、お伽噺や桃源郷のような世界を描き出すようになります。それは2・26事件を経て日中戦争がはじまり、戦時体制が強化されていく日本の状況と無縁とはいえません。閉塞感が強まる現実社会に興味のあるモティーフを見つけることができず、こころの中に真理――谷中のいう「夢の実体」を探し求めているためだと考えられるからです。お伽噺のようなイメージは、現実社会の逆説的反映といえるでしょう。

7.1940-46年 虚空にあそぶ

アジア・太平洋戦争がはじまる前年から死去する年まで、谷中はわずかの版画しか制作していません。そのうちの何点かには、彼岸のイメージを読み取ることができ、求めていた表現の在りかをうかがわせます。この時期の谷中はもはや、現世と来世も区別することなく、何も妨げるもののない虚空に遊んでいるようです。それは自らの精神的な平安とともに、普遍的な真実を求めるこころの衝動であったといえるでしょう。

谷中安規(たになか やすのり、1897-1946)略年譜

















1897年奈良県の初瀬(現・桜井市、真言宗豊山派は総本山長谷寺のある古都)に生まれる。
1909年頃新潟の尋常小学校を終えたあと朝鮮へ渡る。その後、朝鮮の高等小学校を卒業。
1915年単身上京し、豊山中学に通う。
1922年永瀬義郎著『版画を作る人へ』を読み、版画制作を開始。
1924年長谷川巳之吉主宰「第一書房」の居候社員となり、日夏耿之介や佐藤春夫らを知る。
1926年日夏が主宰する雑誌『奢灞都』(サバト)にカットを寄せる。日夏の紹介状を持って永瀬義郎を訪ね、それまでに制作したグロテスクな内容の版画や素描を見せる。一旦京城に引き上げる。
1928年日本創作版画協会展に出品、前川千帆、恩地孝四郎、平塚運一らと知り合う。
1932年前川千帆の紹介状をもって料治熊太を訪ね、『白と黒』(22号より)、『版藝術』(創刊号より)に版画を掲載し始める。日本版画協会の会員となる。
1933年佐藤春夫の紹介で内田百閒を知る。
1934年内田百閒著『王様の背中』の挿絵、装幀。
1936年佐藤春夫著『FOU』の挿絵、装幀。
1946年栄養失調で死去。

関連催事

講演会

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《街の本 動坂》1933年 木版、手彩色 個人蔵

講師:原田光(岩手県立美術館館長)

「普通のことが普通でなく、
普通でないことが普通ということ」

日時:10月12日(日)14:00~15:30
会場:1階講堂
※聴講無料ですが、展覧会ご観覧の方が対象です。

モダンの舞 ピアノの調べ  ―谷中安規に夢をはせて―

谷中安規は踊ることが好きで、憑かれたように踊っていたといいます。
モダン・ダンスのひとときをお届けします。版画美術館初のダンス・イベントです。

○日時:11月3日(月・祝)
      1回目・13:00~ 2回目・15:00~ 各回約30分(プログラムは同じ)

○会場:エントランスホール
※どなたでもご鑑賞いただけますが、お席のご用意はありません。

解説:坂本秀子(日本女子体育大学教授)
コーディネート:伊藤里麻子(武蔵野美術大学講師)

プログラム
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ピアノ独奏:藤野 奏 
モダン・ダンス:坂本秀子舞踊団
「閉ざされた城」 岡野友美子
「さよならの余熱」 小倉藍歌
「琥珀の柩に眠ル」 鈴木いづみ 
「それでも私はここにいる」 松本直子

出演者プロフィール

<解説>
○坂本秀子
日本女子体育大学教授 坂本秀子舞踊団主宰
東京新聞主催全国舞踊コンクール第1位。文部大臣奨励賞、東京都知事賞、村松賞舞踊部門大賞、現代舞踊協会奨励賞、優秀指導者賞、他。

<出演者>
○岡野友美子
坂本秀子舞踊団所属。新人公演100回記念アンデパンダン新人舞踊公演エフォート賞受賞。2012年、秋田全国舞踊祭モダンダンスコンクール入賞。2012年、2013年、東京新聞全国舞踊コンクール入賞。日本女子体育大学大学院修了。

○小倉藍歌
小林久美子、坂本秀子に師事、坂本秀子舞踊団所属。2012年、ダンスプラン賞受賞。2013年、現代舞踊協会制定新人賞受賞。2013、2014年、東京新聞
主催全国舞踊コンクール入賞。日本女子体育大学大学院在学。

○鈴木いづみ
坂本秀子舞踊団所属。2009年、ヨコハマ・コンペティション第1位。2010年、現代舞踊協会制定新人賞受賞。2014年、東京新聞主催全国舞踊コンクール第2位、埼玉全国舞踊コンクール第2位。2014年、なかの国際ダンスコンペテイション第1位。日本女子体育大学大学院修了。
  
○松本 直子 
金井芙三枝・坂本秀子に師事、坂本秀子舞踊団所属。2003年、ヨコハマ・コンペティション第1位。2004年、こうべ全国洋舞コンクール創作部門最優秀賞。2012年、現代舞踊協会制定奨励賞。2006年、文化庁新進芸術家海外派遣研修員として、1年間フランス・パリにて研修。日本大学芸術学部演劇学科洋舞コース卒業。MATSモダンバレエスタジオ主宰。

ギャラリートーク

館長 村田哲朗 10月26日(日)
担当学芸員 10月13日(月・祝)、11月9日(日)、11月23日(日)

いずれも14:00~14:45
※観覧券が 必要です。 2階企画展示室入り口付近からスタートします。

谷中安規の世界を気軽に楽しむ!体験コーナー

「スタンプであそぶ ~谷中安規の夢~」
版画から抜け出たイメージがスタンプに!作品から抜き出した数種類の図柄を紙や布バッグ(布バッグは有料)に押すことができます。

「もしもこの絵が動いたら?~パラパラショートフィルム~」
お気に入りのあの絵が動き出す?!谷中作品をアレンジしたパラパラ漫画をお楽しみいただきます。

「谷中ワールド満開!~夢の万華鏡~」
谷中作品のさまざまなイメージが花開く、夢の万華鏡をのぞいてみよう!

プレスリリース

プレスリリースはこちらからご覧下さい。

  • 芹が谷だより

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平日:午前10時〜午後5時
(入場は4時30分まで)
土・日・祝日:午前10時〜午後5時30分(入場は5時まで)

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町田市立国際版画美術館 〒194-0013 東京都町田市原町田4-28-1 連絡先 電話 042-726-2771/0860/2889