スティップル・エングレーヴィングとメゾチント
ミニ企画展
無料
展覧会概要
美術作品の複製図版は現在では写真が使われるのが一般的ですが、かつては版画によって制作されていました。今回ご紹介するふたつの銅版画技法は、明暗の調子や立体感が表現でき、油彩画などの複製技術として発明されたものです。いずれも写真の登場によって一時はすたれてしまいますが、独自の表現をもつ技法としてふたたび取上げられ、現在にいたっています。
17世紀中頃にドイツで発明されたメゾチント、18世紀中頃にイギリスで発展したスティップル・エングレーヴィング。今回の展示では、主に複製技術として用いられた17世紀から19世紀のヨーロッパの作例と、版画表現として新たな視点でとりあげた現代の日本の版画家たちの作品をご紹介します。
メゾチントは17世紀中頃にドイツで発明された技法です。ベルソ(ロッカー)という道具でまず版全体に細かい傷をつけ、全面にまくれを作ります。この版を刷ると全面がビロードのような質感を持った黒に刷り上がります。次に、スクレイパーなどでまくれを部分的にとりのぞき、みがくことで、さまざまな段階の明暗の調子(グラデーション)を作りだし図像を描きます。黒一色の画面に光で描いていくようなイメージが思い浮かぶのではないでしょうか。ドイツからイギリスに伝えられると、肖像画など油彩画を版画化する技法として急速に広がりました。
版刻:ラインのプリンス・ルパート (1619-1682)
原画:ピエトロ・デラ・ヴェッキア (1602/03-1678)
「旗手」 1658 メゾチント
メゾチントは1642年頃にドイツのルートヴィッヒ・フォン・ジーゲン(1609-80)が発明した技法。プファルツ選帝侯の公子ルパートが道具を改良し、完成させました。
協力:ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション
浜口陽三 (1909-2000) 「西瓜」 1981 メゾチント
忘れかけられたメゾチントに新しい光をあてたのが、ふたりの日本人版画家、長谷川潔と浜口陽三です。暗い背景から浮かびあがる宝石のような色彩が浜口の特長です。
スティップル・エングレーヴィングは18世紀中頃にイギリスで発展した技法です。「スティップル」とは「点描法」のことで、針やルーレット、マトワールといった道具を用いて版面に細かな点を打ち、その粗密で明暗や立体感を表現します。「エングレーヴィング」という、金属の版を刃物で直接刻む技法の名がつけられていますが、酸による腐蝕を利用した手法が広く用いられていたようです。輪郭線はエッチングやエングレーヴィングの線で描き、部分的に用いられることも多い技法です。
版刻:ロバート・テュー (1758-1802)
原画:ヘンリー・フュ―ズリ (1741-1825) 『シェークスピア名場面版画集』より
「ハムレット:エルシノア城の胸壁」 1796 スティップル法エングレーヴィング
鈴木信吾 (1944-1993) 「思い出のディスプレー」 1987
スティップル法エングレーヴィング
鈴木の作品はスティップル・エングレーヴィング技法だけで制作されています。虫メガネを通して銅版にビュランでひとつひとつ点を彫り、色版を刷り重ねるその方法は、気が遠くなるような時間と集中力を必要としました。
展覧会情報
会期 | 2018年1月5日(金)~4月8日(日) |
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観覧料 | 無料 |